私たちが生きている世界とは(4)

虚と実の世界

 私たちが目にし、感じて生きているこの現象世界は、「虚」と「実」が混沌として重なり合っています。このことをしっかり自覚しないで生きていると、知らず知らずに不幸な結果を生きることになります。

 たとえば、家庭内で親と子が口も聞かないほどに仲たがいをしている場合がありますね。ときにはそれが悲惨な結果をまねく場合があります。

 その原因のひとつに親の生き方、価値観が「虚」をつかんでいる場合があります。親が世間体や虚栄心で子供への進路を期待したりしたら、子供との間に亀裂が生じます。

 ある家庭に中学三年生の受験生がいます。あるときお母さんが受験勉強をしている息子に夜食を持っていき「頑張ってね」と言いました。
ところが息子はいきなり「うるせー」と言って、お母さん が持ってきた夜食をひっくり返したのです。

 当然それを知ったお父さんは怒ります。また三者面談でお母さんは先生にも話しました。先生は「こんないいお母さんを困らしたらダメじゃないか」と息子を叱ります。

 なぜ息子は夜食をひっくり返したのでしょうか?そうするにはそうする心の働きがあるはずです。考えられるのは、お母さんへの反抗心です。

 お母さんの「頑張ってね」と言う言葉に純粋な思いやりがあれば反抗しないはずです。
 お母さんが世間体や見栄の強い人で、「頑張ってね」という言葉に、「あなたが希望校に入らなければお母さんの恥だからね」という本心があれば、それをいつも感じ取っていた息子は、その不快感を夜食をひっくり返す行為に出したとも考えられます。

 子供は大人のように「虚」の価値観など思いつきません。純粋な感性や心の感度で生きています。大人は以外とこのことに気づいていないので、子供との間のギャップが埋まりません。

 「実」とは、正しさであり、明るさであり、誠であり、愛です。それに対して「虚」は嘘であり、空であり、暗さです。
 また「実」は、自分自身の人格や人間性、知性、能力、幸福感であり、「虚」は自分の身につけている着物、学歴、肩書、財産などです。

 多くの人は立派な学校を出て、立派な会社、立派な仕事に就くことが優れた人生だと勘違いしています。その生き方、価値観はまぎれもなく「虚」です。

 「実」の生き方、価値観は「幸せに生きる」ことにつきます。学歴がなくても幸せで豊かな家庭をつくれば、学歴があってもいさかいの絶えない家庭よりよほど価値があります。

 「虚」を生きた結果、自分をとりまく環境は間違いなく暗い状態になっていきます。私には「虚」を生きた結果は、その人の晩年にはっきり姿を現してくるように感じられます。

 人生は自分の生きてきた姿をごまかすことなく映し出します。私たちが生きている世界では、「虚」のなかに華やかさや羨望される姿を感じさせるものがありますので、若い時ほどなにが「実」かを見落としがちです。

 私たちはなぜ「虚」にとらわれるのでしょうか?
 それはこの世界の真実、本当のしくみを知らないで五官で見て、感じている世界がすべてだと思っているからです。

 本当の幸せを生きるためには、この世界の本当のしくみを知ることが不可欠です。
 真理を求めるとは、「人間とは何か」を知ることと、「本当の世界を知る」ことでもあるのです。

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